戦略ファシリテーター
事例で整理約3分

M&Aで買うのは規模ではなく時間。M&A戦略を5ステップで整理してみた

従業員20名の人材会社から「M&Aで一気に事業を大きくしたい」と相談を受けました。5つのプロセスで整理すると、論点は売上をいくら増やすかから、自社だけでやるより何年早く何ができるかへ移っていきます。

「M&Aで、一気に事業を大きくしたいんです」

人材会社の社長から、こんな相談をいただきました。従業員は20名、売上は約2億円。既存の事業は堅調ですが、採用が思うように進まず、営業エリアを広げられない状態が続いていました。

買収すれば、売上も人数も一度に増えます。けれども「大きくする」だけを目的にすると、いくらまで払っていいのかが決められません。戦略づくりの5つのプロセスに沿って整理すると、買う理由そのものがはっきりしていきます。

STEP 01:ビジョン・目的・目標

目的を「売上を倍にする」から、「3年以内に2つの県へ営業網を広げ、既存のお客様への提案の幅を増やす」へ置き直しました。買収は手段であって、目的ではありません。何を実現したいのかを先に決めると、どんな会社が候補になるのかも絞られます。

STEP 02:現状分析

自社に足りないものを、人材、顧客基盤、営業拠点、採用力の4つに分けて並べました。そのうえで候補の会社を、売上の規模だけでなく、顧客の顔ぶれ、営業している地域、中心にいる人物、社員の離職率、利益の出方で評価しています。売上が大きくても、辞める人が多い会社であれば、買ったあとに残るものは多くありません。

STEP 03:戦略の方針策定・確定

買収の目的を「売上を手に入れること」ではなく、「営業網と人材を手に入れること」と定めました。目的が決まれば、払っていい上限も決まります。買収後に見込める相乗効果は、控えめに見積もったうえで価格の上限に反映しました。見込みを甘く置くと、その分だけ高く買うことになります。

STEP 04:実行計画の策定

買う前に調べる項目、買ったあと100日で何をするか、中心にいる人物に残ってもらうための条件、お客様が離れないための手当て、システムをどう一つにするか、既存のお客様への提案をどう広げるか。これらを契約の前に設計しました。買ってから考えるのではなく、いつ何を変えるのかを先に文章にしています。

STEP 05:実行方法・振り返り方法

買収後に見るのは、売上だけではありません。中心となる人材が残っている割合、お客様が継続している割合、既存のお客様への提案が成立した件数、システムや体制を一つにするためにかかった費用、そして見込んだ相乗効果のうち実際に出た金額。これらを毎月確認します。売上が計画どおりでも、人が抜けていれば翌年に効いてきます。

M&Aは「安く買える会社」を探すことではない

買収の相談では、いくらで買えるかに話が集まりがちです。けれども価格は、何を手に入れるかが決まってはじめて判断できます。

決めるべきなのは、自社だけでやった場合と比べて、何年早く、何を実現できるのかです。採用を続けて2つの県に営業網を作るのに5年かかるのなら、その5年を買うことになります。そう考えれば、払っていい金額にも根拠が生まれます。

出発点は「一気に大きくしたい」でした。5つのプロセスを通ると、買収は規模を買う取引ではなく、時間を買う判断だと分かります。買ったあとに何が残るのかまで見て、はじめて値段の話ができます。

実際の戦略策定では、ここでご紹介した内容からさらに深く掘り下げ、具体的な論点や打ち手まで整理していきます。今回は、全体の流れが分かるところまでをご紹介しました。

対話を重ねるうちに、値段の前に決めておくべきことが、はっきりしてきました。

書き手:株式会社イボルバパートナーズ(戦略コンサルティング)会社概要
戦略ファシリテーター

戦略コンサルの思考プロセスを、365日24時間、AIで。経営から、営業・DX・人事・組織まで。現状分析・戦略方針・KPI・実行計画・振り返りまで、ひと続きで。