「アウトバウンド戦略」は、戦略なのか、戦術なのか。
アウトバウンドは戦略なのか、戦術なのか。全社戦略・事業戦略・機能別戦略・戦術という階層に当てはめて整理しました。手段に「戦略」という名前をつけることで、戦略を考えたつもりになっていないか。言葉の定義を問い直します。
「アウトバウンド戦略」という言葉に、どうしても違和感がある。これは、優秀なコンサルさんや戦略を考える方は同じではないでしょうか?
今日、中堅コンサル会社のとある広告で「アウトバウンド戦略」という言葉を目にしたことをきっかけに、以前から感じていた疑問について改めて考えてみました。
ビジネスの世界では「〇〇戦略」という言葉をよく耳にします。しかし、そもそもアウトバウンドは「戦略」なのでしょうか。それとも「戦術」なのでしょうか。
そもそも、事業戦略とは何か
私の認識では、一般的に事業戦略とは、言葉やフレームワークに多少の違いはあっても、
- 誰に(Target)
- どのような価値を(Value Proposition)
- どうやって提供するのか(届けるのか)(Value Chain / Business Model)
を、一貫性を持って設計することだと理解しています。
つまり、「誰に、どんな価値を、どのような仕組みで提供し、どう勝つのか」という全体の設計図です。
戦略には、階層構造がある
ここで重要なのは、戦略には階層構造があるということです。一般的には、次のように整理できると考えています。
【① 全社戦略(Corporate Strategy)】
どの事業領域で活動し、どこに経営資源を配分するのか。企業全体として、どの事業に注力し、どのような事業ポートフォリオを構築するのかを決める。
↓
【② 事業戦略(Business Strategy)】
誰に、どのような価値を、どうやって提供するのか。対象市場、ターゲット顧客、提供価値、ビジネスモデルを設計し、競争優位性をどのように構築するかを決める。
↓
【③ 機能別戦略(Functional Strategy)】
事業戦略を実現するために、各機能がどのような役割を担い、何を重点的に行うのか。
例えば、
- 研究開発戦略
- 生産戦略
- 物流戦略
- マーケティング戦略
- 営業戦略
などです。
営業戦略であれば、どの顧客層を優先し、どのような販売チャネルや営業プロセスを構築するのかを設計する。
↓
【④ 戦術・実行計画(Tactics / Action Plan)】
機能別戦略を具体的に実行するための手段や行動計画です。
営業であれば、
- テレアポ
- DM
- メール営業
- 訪問営業
- 各種営業キャンペーン
などが該当します。
このように、上位の戦略を実現するために下位の戦略があり、それを具体化する戦術・実行計画があると捉えています。
もう一つの重要な概念、バリューチェーン
そして、ここにもう一つ重要な概念があります。それが「バリューチェーン」です。
バリューチェーンは、戦略の階層そのものではありません。企業が価値を生み出し、顧客に提供するための活動のつながりを捉える考え方です。
例えば、
研究開発 → 調達 → 製造 → 物流 → マーケティング・販売 → アフターサービス
といった一連の活動です。もちろん、業種やビジネスモデルによって構造は異なります。
このバリューチェーン全体をどう設計し、それぞれの活動をどう連携させるのかも、事業戦略における重要な意思決定です。
アウトバウンドは、どこに位置づけられるのか
では、アウトバウンドはどこに位置づけられるのでしょうか。
私の認識では、アウトバウンドは、バリューチェーンにおける「マーケティング・販売」の活動の中で、顧客との接点をつくるためのアプローチ手法です。つまり、価値提供の仕組み全体ではなく、その一部を担う手段という位置づけです。
もちろん、顧客獲得においてアウトバウンドが非常に重要な役割を果たすことはあります。また、営業戦略の中で、アウトバウンドを主要な顧客獲得チャネルとして選択することもあるでしょう。その選択自体は、営業戦略上の重要な意思決定になり得ます。
しかし、ここで整理しておきたいのは、
「アウトバウンドを採用するという戦略上の判断」と「アウトバウンドという手段そのもの」は、同じではないということです。
例えば、営業戦略の中でアウトバウンドを主要チャネルに位置づけたとしても、その具体的な実行方法であるテレアポやDMが、戦略そのものになるわけではありません。
「戦略の一部を担うこと」と「それ自体が戦略であること」は別の話です。
ここを混同すると、戦略と戦術の階層が曖昧になってしまいます。いわゆる「カテゴリーエラー(階層の取り違え)」に近いことが起きているのではないでしょうか。
なぜ「〇〇戦略」という言葉がこれほど使われるのか
では、なぜビジネスの世界では「〇〇戦略」という言葉がこれほど使われるのでしょうか。一つには、「言葉のインフレ」があるのではないかと感じています。
例えば、「テレアポを中心とした新規顧客開拓の実行計画」と言うよりも、「アウトバウンド戦略」と表現した方が、何となく高度で大きな取り組みに聞こえる。
もちろん、その中にターゲットの選定や営業プロセスの設計など、戦略的な意思決定が含まれている場合もあるでしょう。ただ、少し辛口に言えば、
「戦術に『戦略』という名前をつけることで、戦略を考えたつもりになっていないだろうか?」
という疑問があります。
重要なのは、名称が戦略的かどうかではなく、その中身が本当に戦略の階層で議論されるべきものなのか、ということだと思います。これは特定の企業や業界に限った話ではなく、ビジネス全般で起こり得ることだと思っています。
もう一つ気になるのは、「部分最適」の問題
そして、もう一つ気になるのは「部分最適」の問題です。
営業部門だけを見れば、アウトバウンドの強化は重要な方針かもしれません。しかし、事業全体から見たとき、それが本当に最適な選択なのでしょうか。
本来は、
「誰に、どんな価値を、どうやって提供するのか(届けるのか)」
という事業全体の設計が先にあるべきだと思います。その事業戦略を実現するうえで、営業が果たすべき役割は何か。どのような顧客獲得の仕組みが必要なのか。
その結果としてアウトバウンドが適しているのであれば、選択すればいい。インバウンドが適しているのであれば、そちらを選択すればいい。場合によっては、両者を組み合わせることが最適かもしれません。
戦略によって戦術を選ぶのであって、戦術ありきで戦略を考えるわけではない。
私は、この順序が大切だと思っています。
「アウトバウンド戦略」という表現を否定したいわけではない
もちろん、「アウトバウンド戦略」という表現そのものを否定したいわけではありません。
アウトバウンドを軸に、ターゲット顧客の選定、顧客獲得の仕組み、営業プロセス、経営資源の配分までを設計しているのであれば、営業領域における戦略として議論する余地はあると思います。
ただし、戦略には全社戦略、事業戦略、機能別戦略といった階層があるからといって、戦略と戦術の区別まで曖昧にしてよいわけではありません。
戦略は、何を実現するために、何を選択し、どのような仕組みを構築するのかを決めるもの。戦術は、その戦略を実現するための具体的な手段や実行計画です。
この基本的な構造を無視して、具体的な手段に「戦略」という名前をつけることには、やはり違和感があります。
ここで重要になるのが、「共通言語」
そして、ここで重要になるのが「共通言語」です。
共通言語とは、単に組織内で同じ言葉を使っていることではありません。その言葉が持つ意味や構造を理解し、同じ認識のもとで議論できていることだと思います。
仮に組織内で「アウトバウンド戦略」という言葉が定着していたとしても、それが具体的な営業施策だけを指しているのであれば、戦略と戦術の階層を取り違えていないか、一度考える必要があるのではないでしょうか。
社内で全員が同じ言葉を使っているからといって、その概念を正しく理解できているとは限りません。
むしろ、誤った認識が組織の共通言語になってしまえば、その認識を前提に意思決定が進んでしまう可能性もあります。
言葉の定義は、単なる言葉遊びではない
言葉の定義は、単なる言葉遊びではありません。
「何を戦略とし、何を戦術とするのか。」
「今、どの階層の意思決定をしているのか。」
そして、
「その意思決定は、上位の戦略と整合しているのか。」
これらを整理することが、戦略的な意思決定の前提になると考えています。
「戦略」という言葉が増えることと、「戦略的に考えられる組織」が増えることは、必ずしも同じではない。
言葉を立派にすることよりも、戦略の構造を正しく理解し、その中身を議論することの方が、はるかに重要なのではないでしょうか。
そんなことを、「アウトバウンド戦略」という言葉をきっかけに考えました。
皆さんは「戦略」と「戦術」の階層構造を、どのように捉えていますか? そして、その定義は組織の共通言語になっていますか?
階層が決まらないまま、手段の議論に入っていないか
そして、どの階層の意思決定をしているのかを揃えるには、まず「何の戦略を立てるのか」を決める必要があります。
決まらないまま手段の議論に入れば、戦略と戦術の階層は曖昧になります。曖昧なままでは、上位の戦略と整合しているかを確かめることもできません。
以前の記事で取り上げた調査では、戦略を実行する正式なプロセスがある組織の70%が自社の業績を優れていると回答し、ない組織では27%でした。43ポイント、約2.6倍の差です。同じ記事で取り上げた別の調査では、厳格な進め方で変革を完了したケースの成功率が79%、調査全体の平均が26%で、約3.0倍でした。
どちらも自己申告を含む調査で、階層の取り違えだけを測ったものではありません。それでも、戦略から実行までがつながっているかどうかで、これだけの開きが出ています。
「戦略ファシリテーター」は、何の戦略を立てるのかを決めるところから始めます。経営戦略(全社戦略)なのか、事業戦略なのか、営業やマーケティングといった機能別戦略なのか。階層が決まってから、実現するための戦術・実行計画に落とし込みます。
戦略を考えるというのは、結局、階層を取り違えず、上位の戦略と整合しているかを確かめ続けることなのだと思います。
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