バリューチェーン フレームワーク
事業活動を調達・製造・販売などの工程の連鎖に分解し、どこで価値と利益が生まれているかを可視化する現状分析の枠組み。
事業を工程の連鎖に分け、どこで価値と利益が生まれ、どこが足を引っ張っているかを工程ごとに見る。
各工程の月次コストと工数は実数で入れる(推測を避ける)。中小企業は「仕入れ→作る→売る→フォロー」に置き換えてよい。
用途
「うちは何となく儲かっている/儲かっていない」という漠然とした感覚を、工程ごとの事実に落とし込むための道具です。 事業を「原材料の調達→製造・サービス生産→出荷物流→販売・マーケティング→アフターサービス」といった主活動と、それを支える「調達・技術開発・人事・全般管理」という支援活動に切り分け、各工程が生み出す価値とかかるコストを一つずつ見ていきます。 全体を一括りに見ていると「どこが強くてどこが足を引っ張っているか」が絶対に見えません。 工程単位に割ることで初めて、削るべき無駄、伸ばすべき強み、外注すべき弱みが特定でき、コスト優位や差別化をどこで作るかという次工程(戦略方針)の判断材料になります。 5プロセスでは②現状分析の中核ツールで、特に業務効率化・DX・ファイナンス戦略で「どこにテコを入れるか」を決める土台になります。
使い方
- 自社の事業を主活動(調達→製造/生産→物流→販売・マーケ→アフターサービス)と支援活動(人事・技術開発・調達管理・全般管理)に分解して1枚に書き出す。 中小企業は自社の言葉で「仕入れ→作る→売る→フォロー」程度に置き換えてよい。
- 各工程にかかっている月次コストと人員(工数)を実数で記入する。 ここで推測を避け、会計データ・給与・稼働時間の実績を突き合わせるのが精度の分かれ目。
- 各工程が『顧客が対価を払っている価値』にどれだけ貢献しているかを評価し、強み(他社より優れる工程)・弱み(他社に劣る/赤字の工程)に色分けする。
- 強みの工程は差別化の源泉として磨く、弱みの工程は改善・外注・撤退のいずれかを決める。 工程間のつなぎ目(受け渡しのロス)にも着目する。
- 分析結果を次工程の③戦略方針(コスト優位で戦うか差別化で戦うか)と④アクションプランに接続し、着手する工程を1〜2つに絞って実行に移す。
適用例
従業員18名・年商2.4億円のB2B向け業務用パンの製造販売会社が、営業利益率が3%まで低下した原因を探るためにバリューチェーンで工程別に月次コストを棚卸しした。 主活動を「原材料調達(月380万円)→製造(人件費・光熱費で月620万円)→配送(自社トラック2台・月210万円)→営業(外回り3名・月150万円)」に分解したところ、配送が売上の10.5%を食い、しかも1台あたり積載率が45%しかないことが判明。 工程を横並びで見て初めて「製造は他社より粗利が高い強み、配送が最大の弱み」と特定できた。 そこで配送のみを地場の物流会社へ委託(月210万円→委託費135万円)し、空いたドライバー1名を新規開拓の営業へ転換。 半年後、配送コスト削減で月75万円、営業増員で月次受注が約8%増え、営業利益率は3%→6.2%へ改善した。 全体を眺めていたら「配送」という具体的なテコには辿り着けなかった。
よくある誤解・つまずき
- 「バリューチェーン=業務フロー図を描くこと」だと思い込む誤解。 工程を並べるだけでは半分で、各工程のコストと『顧客が払う価値への貢献度』を数字で埋めて初めて意思決定に使える。 図解で満足して終わるのが最大の落とし穴。
- ポーターの原典の主活動・支援活動の枠に無理やり自社を当てはめようとして手が止まる誤解。 中小企業やサービス業・SaaSでは、原型どおりの製造業モデルに合わないのが普通。 自社の実際の流れ(例:SaaSなら開発→オンボーディング→サポート→継続利用促進)に翻訳して使うのが正しい。
- バリューチェーンは『自社の内部』を分析する道具なのに、競合や市場の分析だと混同する誤解。 外部環境は3Cや5Forcesの担当で、バリューチェーンはあくまで自社の強み弱みを工程で捉える内部分析。 役割を混ぜると論点がぼやける。
使うタイミング
既に一定の事業活動が回っていて、工程ごとのコストや工数の実データが取れる段階で使うのが最適です。 ②現状分析でSWOTの「強み・弱み」を工程レベルまで具体化したいとき、あるいはコスト構造を見直して利益改善のテコを探したいときに効果を発揮します。 逆に、まだ売上がほとんど立っていない創業直後や、これから作る新規事業のアイデア段階で使うと、分解すべき実態がなく「絵に描いた工程表」になり早すぎる失敗を招きます。 また、工程別のコスト実績を集めずに感覚だけで色分けすると、間違った工程にテコを入れてしまい遅すぎる・的外れな打ち手になります。 数字が揃ってから使うのが鉄則です。
出典
マイケル・ポーター/競争優位の戦略(ダイヤモンド社, 1985)
