ユニットエコノミクス(顧客1件の採算分析) フレームワーク
顧客1件から生涯に得る粗利(LTV)と獲得にかかる費用(CAC)を比べ、顧客を増やすほど儲かる構造になっているかを判定する手法。
全体の損益ではなく「顧客1件」の採算を見る。1件の採算が合っていれば、全体が赤字でも顧客を増やす投資は正しい。
用途
ユニットエコノミクスの目的は、会社全体の損益ではなく「顧客1件」の単位で採算を見ることにある。 サブスクリプションや継続課金の事業では、獲得した月は赤字で、継続して初めて回収できる。 だから全体が赤字でも顧客1件の採算が合っていれば、顧客を増やす投資は正しく、逆に1件の採算が合っていなければ、顧客を増やすほど赤字が膨らむ。 LTV(月額単価×粗利率×平均継続月数)とCAC(獲得費用÷新規獲得数)の比、そしてCACを回収するまでの月数を見ることで、「広告を増やしてよいか」「値付けと解約率のどちらを直すべきか」が数字で決まる。 中小のSaaSやサブスク事業が、成長投資のアクセルを踏んでよいかを判断するための最も基本的な道具である。
使い方
- 5つの数字を用意する:月額単価・粗利率・月次解約率・獲得費用の総額(広告費+営業人件費など)・新規獲得数。 解約率は必ず『月次』で取る。
- LTVを計算する:平均継続月数=1÷月次解約率、LTV=月額単価×粗利率×平均継続月数。
- CACを計算する:CAC=獲得費用の総額÷新規獲得数。 獲得に直接かかった費用だけを入れ、既存顧客の維持費は入れない。
- 判定する:LTV÷CACが3倍以上か、CAC回収期間(=CAC÷(月額単価×粗利率))が12か月以内かを目安に見る。
- 弱い要素から方針へ:比率が低ければ、解約率(定着・サポート)、単価(値付け・上位プラン)、CAC(チャネルの見直し)のどれを動かすかを決め、STEP3の方針に落とす。
適用例
【中小企業向けの勤怠管理SaaS(従業員15名)の例】 月額単価3万円・粗利率80%・月次解約率2.5%。 直近半年の獲得費用は広告300万円と営業人件費300万円の計600万円で、新規獲得は25社だった。 ・平均継続月数=1÷2.5%=40か月 ・LTV=3万円×80%×40か月=96万円 ・CAC=600万円÷25社=24万円 ・LTV÷CAC=4.0倍 ・CAC回収期間=24万円÷(3万円×80%)=10か月 経営者は全社が赤字であることを理由に広告を止めようとしていたが、顧客1件の採算は4倍で回収も10か月と健全だった。 赤字の正体は、獲得した顧客がまだ回収期間の途中にあるだけだった。 方針を「広告を止める」から「解約率を下げてLTVを伸ばしつつ、広告は継続」に変えた。 導入後30日のサポート強化で月次解約率が2.5%から2.0%へ下がると、平均継続月数は50か月、LTVは3万円×80%×50=120万円となり、LTV÷CACは5.0倍に上がった。 同じ広告費でも、1件の顧客から得る粗利が24万円増えた計算になり、その分を次の獲得投資に回せるようになった。
よくある誤解・つまずき
- 『年次の解約率をそのまま平均継続月数の計算に使う』という誤解。 式の解約率は月次が前提。 年26%の解約率を月次と取り違えると、継続月数が約10分の1に縮み(40か月が約3.8か月になる)、LTVを大幅に過小評価して健全な事業を止めてしまう。
- 『CAC回収期間と初期投資の回収期間は同じもの』という誤解。 前者は顧客1件の獲得費用を粗利で回収する月数、後者は設備や開発などの投資全体を回収する年数で、別の指標。 混ぜると判断を誤る。
- 『LTV÷CACが3倍以上なら何もしなくてよい』という誤解。 比率は平均値で、顧客の層や獲得チャネルごとに見ると、赤字のチャネルが黒字のチャネルに隠れていることがある。 セグメント別・チャネル別に分けて見る。
使うタイミング
戦略づくりの5プロセスのうち②現状分析で、継続課金の事業の成長投資を判断する局面で使う。 デジタルマーケティング・新規事業・GTMで効く。 早すぎる失敗=解約率や獲得費用の実データが数か月分も無い段階で計算すると、1件2件の解約で数字が大きく振れ、判断の根拠にならない(実データが揃うまでは着眼点にとどめる)。 遅すぎる失敗=広告費を大きく積んだ後に計算すると、CACが合わないチャネルへの投資を取り戻せない。 チャネルごとの投資を増やす前に1件の採算を確かめ、比率が合うチャネルにだけ積み増す。
