LTV/CAC比率 用語
顧客1人の生涯価値(LTV)を、その顧客を獲得する費用(CAC)で割った倍率。 事業が儲かる構造かを診断する指標。
顧客1人の生涯利益が、獲得費用の何倍か。3倍以上が健全、1倍未満は獲得するほど赤字が膨らむ。
説明
LTV/CAC比率とは、顧客1人が取引期間の全体で自社にもたらす利益(LTV=顧客生涯価値)を、その顧客1人を新たに獲得するのにかかった費用(CAC=顧客獲得コスト)で割った倍率です。 計算式は「LTV/CAC比率=LTV ÷ CAC」で、単位は倍(円÷円のため打ち消し合い無次元)になります。 分子のLTVは、サブスク型なら「LTV=1顧客あたり月次売上(ARPA)× 粗利率 ÷ 月次解約率(円)」で概算でき(平均継続月数=1÷月次解約率)、分母のCACは「CAC=一定期間の獲得費用総額(広告費+獲得に関わる人件費)÷ 同期間の新規顧客数(円/件)」で求めます。 比率が高いほど、かけた獲得費用に対して回収できる利益が大きく、儲かる構造だと判断できます。 SaaS業界では一般に3倍以上が健全、1倍未満は獲得するほど赤字が膨らむ危険水域とされる目安が知られています。
適用例
従業員12名のB2B向け勤怠管理SaaS「A社」で試算した例。 1顧客あたり月次売上(ARPA)が2万円、粗利率80%、月次解約率2%(=平均継続50か月=1÷0.02)のとき、LTV=20,000円 × 0.80 ÷ 0.02=80万円(=20,000×0.80×50か月)。 一方、直近3か月の広告費360万円+獲得に関わる営業人件費840万円=計1,200万円で新規120件を獲得したので、CAC=1,200万円 ÷ 120件=10万円/件。 よってLTV/CAC比率=80万円 ÷ 10万円=8.0倍で、健全な水準。 加えて回収期間(CACを粗利で割る)は10万円 ÷(20,000円×0.80=16,000円/月)=6.25か月で、6〜7か月で獲得費を回収できる計算。 ところが翌四半期に競合増で獲得単価が上がりCACが15万円/件に悪化すると、比率は80万円 ÷ 15万円=5.3倍へ低下し回収期間も9.4か月に延びた。 A社はLTV側を引き上げるため、解約率を2%→1.3%に改善(平均継続77か月化)してLTVを約123万円へ押し上げ、比率を123万円 ÷ 15万円=8.2倍に戻した。 獲得費を削るより「解約を減らしLTVを伸ばす」ほうが比率を大きく改善できると数字で確認できた事例。
よくある誤解・つまずき
- 「比率は高ければ高いほど良い」という誤解。 10倍・20倍と極端に高い場合、獲得への投資が不足していて本来もっと伸ばせる成長機会を逃しているサインでもある。 健全なのは3〜5倍前後で、そのうえで獲得額を増やしても比率が保てるなら、むしろアクセルを踏むべき局面。 高すぎる比率を『優秀』と喜ぶだけで投資判断につなげないのが落とし穴。
- LTVを『売上ベース』で計算してしまう誤解。 LTVは粗利(原価を引いた利益)で見るのが原則で、売上のまま計算すると比率が実態より大幅に大きく見え、赤字なのに黒字だと錯覚する。 サーバー費・サポート費・決済手数料などの変動原価を売上原価に含め、粗利率をかけてから比率を出すこと。
- CACの分母・分子の取り方が人によってバラバラになる落とし穴。 広告費だけをCACとし、獲得に動いた営業・マーケの人件費を除外すると、CACが過少になり比率が甘く出る。 また『全顧客』でなく『新規獲得顧客』だけを分母にするなど定義を固定しないと、月ごとの比較が成立しない。 まず自社のCAC・LTVの定義を明文化してから継続計測する。
使うタイミング
②現状分析で自社の収益構造の健全性を診断するとき、③戦略の方針でどの事業・チャネルに獲得予算を配分するかを決めるとき、④アクションプランで獲得投資の上限やKPIを設定するときに使います。 とくにサブスク型(SaaS・会員制・定期購入)のように顧客が長期に継続し、獲得費を後から回収するビジネスで威力を発揮します。 使いどころの目安は、LTVとCACの両方を実データで計算できるだけの取引履歴・原価データがそろってから。 誤用条件として、単発売り切りでリピートがほぼ無い事業や、まだ顧客数が数件で解約率・継続月数が統計的に信頼できない創業直後の段階で厳密な比率を出しても意味が薄い(この場合は比率より回収期間や単純な粗利で見るほうが実務的)。 また比率だけを追うと、解約が悪化しているのに新規獲得を絞って一時的に数字を良く見せる誤った改善に陥りやすいため、必ず解約率・回収期間とセットで見ることが必要です。
