投資評価(NPV/ROI/回収) フレームワーク
投資案をNPV(正味現在価値)・ROI(投資利益率)・回収期間の3つで評価し、実行するか・どの案を優先するかを判定する手法。
投資案をNPV・ROI・回収期間の3つで並べる。「儲かるが元が取れるのが遅い案」と「利益は薄いがすぐ戻る案」の違いが見える。
不明な前提は「仮・要検証」の印を付けて概算し、実データが入り次第差し替える。割引率や売上の前提を上下に振って、判定が変わる境目を確かめる。
用途
投資評価の目的は、「この投資はやるべきか」「複数の案のどれを先にやるか」を、勘や声の大きさではなく、将来のキャッシュフローの数字で決めることにある。 NPVは将来の現金を割引率で現在価値に直して初期投資を引いた額で、プラスなら投資価値がある。 ROIは投資額に対していくら回収できるかの率、回収期間は元が取れるまでの年数で、それぞれ収益性と資金の戻りの速さを表す。 3つを並べることで、「儲かるが元が取れるのが遅い案」と「利益は薄いがすぐ戻る案」の違いが見え、資金体力に合った優先順位が付けられる。 中小企業ではデータが揃わないことも多いが、仮定を「仮・要検証」と明記して概算し、あとで実データに差し替える使い方ができる。
使い方
- 前提を並べる:初期投資額・各年のキャッシュフロー(税引後)・期間・割引率(借入金利や資本コストの目安)。 不明な前提は仮置きし『仮・要検証』と印を付ける。
- NPVを計算する:各年のキャッシュフローを(1+割引率)の年数乗で割って足し、初期投資を引く。 プラスなら投資価値あり。
- 回収期間とROIを計算する:単純回収期間=累計キャッシュフローが初期投資に達する年数、ROI=(累計の総回収額−投資額)÷投資額。 総回収額は投資を引く前の額で数える。
- 判定と感度を見る:NPVの符号で採否、ROIと回収期間で優先順位を付ける。 割引率や売上の前提を上下に振って、判定が変わる境目を確かめる。
- STEP3の方針とSTEP4の施策へ:採用した案の前提をKPIにし、実データが入り次第、仮置きの数字を差し替えてNPVを更新する。
適用例
【製造業(従業員60名)の生産設備の更新投資の例】 初期投資3,000万円、更新後は人件費と不良の削減で毎年1,000万円のキャッシュフローが5年続く見込み。 割引率は借入金利と自己資本コストを踏まえて8%と置いた。 ・NPV=1,000万円×(5年分の現在価値係数3.99)−3,000万円=約+990万円 ・単純回収期間=3,000万円÷1,000万円=3年 ・ROI=(総回収5,000万円−3,000万円)÷3,000万円=66.7% ・参考:内部収益率IRRは約20%で、割引率8%を上回る(NPVがプラスであることと整合) 経営者は当初「5年で5,000万円戻るなら儲かる」と単純に見ていたが、割引後の価値で見ると上乗せは約990万円で、5,000万円という数字の印象よりずっと小さい。 一方、同時に検討していた新規販路の投資は初期2,000万円・年600万円×5年で、NPVは約+400万円・回収期間3.3年だった。 結論は「設備更新を先に、販路投資はその回収が始まる2年後に」。 理由は、NPVが大きいだけでなく、回収期間が短く資金体力を早く回復できるため。 3年後に実績を入れ直すと年間キャッシュフローは1,100万円で、NPVは仮置きより約400万円上振れした。
よくある誤解・つまずき
- 『回収期間が短ければ良い投資』という誤解。 回収期間は回収後のキャッシュフローを一切見ない。 回収は早いが5年で終わる案と、回収は遅いが15年続く案では、NPVで見れば後者が大きいことがある。 回収期間は資金体力の判断に使い、採否はNPVで決める。
- 『ROIの回収額は投資を引いた後の利益で数える』という誤解。 ROI=(総回収額−投資額)÷投資額であり、総回収額は投資を引く前の額。 引いた後の額をもう一度引くと、ROIが実態より小さく出る。
- 『割引率は適当でよい』という誤解。 割引率を8%から12%に変えるだけでNPVの符号が変わる案は多い。 借入金利・自己資本コストから根拠を持って置き、上下に振った感度を必ず見る。
使うタイミング
戦略づくりの5プロセスのうち②現状分析で、投資案の採否や優先順位を決める局面で使う。 M&Aでは必須、新規事業・DX・海外展開・ファイナンス戦略でも使う。 早すぎる失敗=各年のキャッシュフローの見込みすら置けない段階でNPVを計算しても、数字の精度が見せかけになる(その段階では『どの前提が決まれば計算できるか』を整理する)。 遅すぎる失敗=投資を実行した後に計算すると、判断の道具ではなく正当化の道具になる。 実行の前に、前提を『仮・要検証』の印つきで計算し、実行後に実データで更新する使い方が正しい。
