戦略ファシリテーター

事業ドメイン(3つの円) フレームワーク

じぎょうドメイン

事業ドメインは「誰に・何を・どのように」の3つの円で自社の戦う土俵を定義し、現状の事業範囲と機会を可視化する枠組みです。

誰に(顧客)・何を(提供価値)・どのように(技術・能力)の3つの円で、戦う土俵を言語化する。重なりが、いまの事業範囲。

事業ドメインの図。誰に、何を、どのようにの3つの円が重なる領域が、いまの事業が成立している範囲事業WHO誰に業種・規模・部署・立場までWHAT何を顧客が得る成果・用事HOWどのように真似されにくい技術・能力3つの交点=いまの事業範囲を1文で

「何を」は製品でなく顧客の用事で書く(ドリルでなく「壁に開く穴」)。円の外側に、横展開・能力転用・チャネル拡張の3方向で成長余白を探す。

用途

事業ドメインとは、自社が「誰に(顧客)」「何を(提供価値・機能)」「どのように(技術・能力)」提供するかという3つの軸で、戦っている土俵そのものを言語化する考え方です。 3つの円が重なる領域が、いまの事業が成立している範囲を表します。 多くの中小企業は「うちは〇〇業です」と業種名で自社を語りがちですが、業種名は土俵を狭く固定してしまい、隣接する成長機会を見えなくします。 事業ドメインの目的は、自社を「作っている製品」ではなく「解決している顧客の用事」で捉え直し、①いまの事業範囲の輪郭を明確にする、②手を広げすぎ/狭すぎのバランスを点検する、③次に攻める余白(3つの円の外側)を見つける、の3点にあります。 5プロセスでは②現状分析の工程で使います。 3C分析やSWOTで集めた市場・競合・自社の材料を、この3つの円に落とし込むことで、③戦略方針で答えるべき「誰に・どんな価値を・どうやって提供するか」の土台が固まります。

使い方

  1. 【誰に(顧客軸)を書く】現在お金を払ってくれている顧客を、業種・規模・部署・立場まで具体的に列挙する。 「中小企業」ではなく「従業員30〜100名の地方製造業の総務担当」まで解像度を上げる。
  2. 【何を(価値・機能軸)を書く】自社が売っている『製品』ではなく、顧客が得ている『成果・用事』で書く。 ドリルではなく『壁に開く穴』、会計ソフトではなく『月次決算の早期化』のように機能で定義する。
  3. 【どのように(技術・能力軸)を書く】その価値を生み出している自社固有の技術・ノウハウ・仕組み・チャネルを書き出す。 設備、独自データ、資格保有者、既存顧客基盤など、真似されにくい能力を洗い出す。
  4. 【3つの円を重ねて現状範囲を確定する】3軸の交点=いまの事業が成立している範囲を1文で言い切る。 「〇〇な顧客に、〇〇という成果を、〇〇の能力で届けている」と埋める。 空白や矛盾があれば戦略が定まっていない兆候。
  5. 【円の外側に成長余白を探す】同じ顧客に別の価値(横展開)、同じ能力で別の顧客(能力転用)、同じ価値を別の届け方(チャネル拡張)の3方向で、隣接する空白マスを候補として書き出し③戦略方針へ渡す。

適用例

従業員18名のBtoB向けクラウド勤怠管理SaaS「A社」を例にとる。 売上は年約2.4億円、月額課金の平均単価は1社あたり月4.8万円、契約社数420社、解約率(月次)は1.8%だった。 当初A社は自社を「勤怠管理システム会社」と定義していたが、これは『何を』を製品名で狭く固定した状態だった。 3つの円で棚卸しすると――「誰に」=従業員50〜300名の医療・介護法人の労務担当(既存420社の68%が該当)、「何を」=製品ではなく『複雑なシフトと残業計算を自動化し、労基署対応の書類作成工数を月20時間削減する』という成果、「どのように」=介護業界特有の変則シフト計算ロジックと、社労士監修の帳票テンプレート(競合の汎用SaaSが持たない独自能力)、と定義し直せた。 この3軸を重ねると「介護・医療法人の労務担当に、労基対応の工数を月20時間減らす成果を、業界特化ロジックで届けている」が現状ドメインと確定。 次に円の外側を探すと、「同じ顧客(介護法人)×別の価値(採用・定着支援)」という空白マスが浮かび、既存420社への追加提案が可能な隣接領域だと判明した。 A社は③戦略方針でこの領域に絞り、単価4.8万→7.2万円への引き上げ(採用支援オプション月2.4万円)を狙う仮説を立て、解約率1.8%の低い既存基盤を活かすアップセル戦略へ舵を切れた。

よくある誤解・つまずき

  • 『事業ドメイン=業種名や取扱商品』という誤解。 「飲食業」「システム開発」と書いた時点で分析にならない。 ドメインは業種ではなく〈顧客×価値×能力〉の交点であり、『何を』は必ず製品名でなく顧客が得る成果で書く。 ここを製品で書くと成長機会がすべて見えなくなる。
  • 『広く定義するほど市場が大きくて有利』という誤解。 中小企業が『すべての企業に、あらゆる業務効率化を』と広げると、限られた人員・資金が分散し、どの円も浅くなって競合に各個撃破される。 中小企業ではむしろ3つの円を狭く深く重ねた方が、独自能力(How)が効いて勝ちやすい。
  • 『一度決めたら固定』という誤解。 ドメインは現状分析の写真であって永久の宣言ではない。 顧客の用事や自社能力は変わるため、5プロセスの⑤振り返りで再点検し、円の重なりがズレていないかを定期的に見直す前提で使う。

使うタイミング

使うのは②現状分析の工程で、3C分析やSWOTである程度の市場・競合・自社情報が集まった後です。 順序を逆にして事業ドメインから先に決めようとすると、材料(顧客の実像や自社の真の強み)が手元にないまま抽象的な自己定義に終わり、机上の空論になります(早すぎる失敗)。 逆に、③戦略方針まで進んでから「そもそも我々の土俵はどこか」を問い直すのも遅すぎます。 誰に何をどう提供するかの方針は、土俵(ドメイン)が定まって初めて意味を持つため、方針策定の直前に必ず一度ドメインを言語化しておく必要があります。 また、新規事業の検討時や、既存事業が頭打ち・解約増で「次の一手」を探すタイミングでは特に有効です。 「うちは何屋か」が社内でバラバラなときも、認識を揃える共通言語として機能します。

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