ビジョンの深掘りの方向性 フレームワーク
曖昧なビジョンを「誰に・何を・どうなりたいか」など複数の軸で問い直し、判断できる方向性へ具体化する視点のこと。
漠然としたビジョンを、目的・ありたい姿・目標の3層に分け、4つの軸で問い直して、判断に使える具体表現へ降ろす。
「社会貢献」「No.1」のような抽象語は「それは誰の・どの場面が・どう変わることか」と問い直す。数字に落ちない項目は「何をもって達成とするか」を1文で定義する。
用途
ビジョンの深掘りの方向性とは、「社会に貢献したい」「業界No.1になりたい」といった漠然としたビジョンを、そのまま置かずに複数の切り口(軸)から問い直し、日々の意思決定の判断基準になるレベルまで具体化するための視点のことです。 ビジョンは高く掲げるだけでは戦略の出発点になりません。 「そのビジョンが実現した状態とは、誰の・何が・どうなっている状態か」を掘り下げて初めて、現状分析で何を見るべきか、戦略でどこに賭けるべきかが決まります。 多くの中小企業では、ビジョンが「頑張る」「良い会社になる」といったスローガンで止まり、社員によって解釈がバラバラになります。 深掘りの目的は、①ビジョンの抽象度を1段ずつ下げて共通理解をつくる、②「なぜそれを目指すのか(目的)」と「どうなっていたいか(ありたい姿)」と「数字で言うと何か(目標)」を切り分ける、③複数の深掘り軸を用意して掘り漏れを防ぐ、の3点にあります。 掘る軸を決めておくことで、経営者の頭の中にある本当の意図を引き出し、抽象論で終わらせないようにします。 5プロセスでは①ビジョン・目的・目標の工程で使います。 ここで方向性を具体化しておくと、②現状分析で「そのありたい姿と今のギャップはどこか」を測る基準ができ、③戦略方針で「そのギャップをどう埋めるか」の判断がぶれなくなります。 深掘りが浅いまま先へ進むと、以降の工程すべてが土台の曖昧さを引きずります。
使い方
- 【まず今のビジョンを1文で書き出す】「〇〇を通じて〇〇を実現する」の形で現状の言葉をそのまま書く。 この時点では抽象的でよい。 何を掘るかの出発点にするため、飾らず経営者の生の言葉で残す。
- 【目的・ありたい姿・目標の3層に分けて掘る】同じビジョンに対し「なぜ(目的・存在意義)」「どうなっていたいか(3〜5年後のありたい姿)」「数字で言うと(売上・顧客数・シェア等の目標)」を別々に問う。 1つの言葉に3つが混ざっているのをほぐす。
- 【4つの深掘り軸で角度を変えて問い直す】(1)誰のために=顧客・社会・社員の誰か、(2)何を=提供する価値・変化、(3)どこまで=時間軸と到達水準、(4)なぜ自社=他社でなく我々がやる理由、の4軸で1問ずつぶつけ、掘り漏れを防ぐ。
- 【抽象語を1段ずつ具体語へ言い換える】「社会貢献」「No.1」など抽象語が出たら「それは誰の・どの場面が・どう変わることか」と問い直し、判断に使える具体表現へ降ろす。 5W(誰・何・いつ・どこ・なぜ)が埋まるまで繰り返す。
- 【深掘り後のビジョンを目標(数字)に接続する】具体化したありたい姿を、SMARTやKGI・KSF・KPIの形で測れる目標へ変換し、②現状分析へ渡す。 数字に落ちない項目は「何をもって達成とするか」を1文で定義しておく。
適用例
従業員22名の建設業向け現場管理クラウド「B社」の事例。 年商は約1.6億円、契約120社、月額単価は平均11.1万円(120社×11.1万円×12か月=約1.6億円)、月次解約率2.4%だった。 経営者の当初ビジョンは「建設業をもっと良くする会社になる」で、社内では『多機能化を進めること』と解釈する開発チームと、『とにかく契約社数を増やすこと』と解釈する営業チームで方向が割れていた。 そこで深掘りの4軸で問い直した。 (1)誰のために=『元請けの大手』ではなく『職人が5〜30人の地域工務店の現場監督』、(2)何を=機能の多さではなく『現場写真の整理と役所提出書類の作成にかかる週8時間の事務作業をゼロに近づける』という変化、(3)どこまで=5年後に年商5億円・契約500社・その負担を平均週8時間→2時間へ、(4)なぜ自社=創業者が元・現場監督で、大手ツールが拾わない小規模現場の帳票を熟知している点、と言語化できた。 この深掘りで「建設業を良くする」という抽象ビジョンが、『小規模工務店の現場監督の事務作業を、5年で週8時間→2時間に減らし、契約500社・年商5億円を目指す』という測れる方向性に変わった。 数字の筋も確認した――単価11.1万円を維持するなら5億円には約375社、単価を1.5倍の16.7万円へ引き上げれば約250社で到達する。 方向性が定まったことで、②現状分析では「現場監督の事務時間」というKPIを軸に今のギャップを測ることが決まり、開発と営業の解釈のズレも解消。 多機能化ではなく『事務時間削減に効く機能だけ』へ開発を絞る判断ができた。
よくある誤解・つまずき
- 『ビジョンは深掘りせず、格好いいスローガンのまま掲げればよい』という誤解。 掲げるための言葉と、判断するための言葉は役割が違う。 「業界を変える」は旗印には良いが、そのままでは現状分析で何を測るかも、戦略で何に賭けるかも決められない。 旗印は残しつつ、その裏に測れる方向性を用意しておく必要がある。
- 『深掘りとは、より壮大で立派な言葉に言い換えること』という誤解。 深掘りは抽象度を上げることではなく、逆に1段ずつ下げて『誰の・どの場面が・どう変わるか』を具体化する作業。 「社会貢献」を「持続可能な未来の共創」と言い換えても解像度は上がらず、むしろ全社が同じ空虚な言葉に収束して差別化を失う。
- 『目的・ありたい姿・目標は同じもの』という誤解。 「なぜやるか(目的)」「どうなりたいか(ありたい姿)」「数字で言うと何か(目標)」は別物で、1つの文に混ぜると議論が噛み合わない。 3層に分けて掘らないと、目的を語っているつもりが数字の話になったり、その逆が起きて堂々巡りになる。
使うタイミング
使うのは5プロセスの①ビジョン・目的・目標の工程、特にビジョンの言葉が出そろった直後です。 ②現状分析へ進む前に必ず一度、掲げたビジョンを深掘りの軸で問い直しておきます。 ここを飛ばして現状分析に入ると、「何と今を比べるのか(ありたい姿)」が曖昧なため、ギャップが測れず分析が発散します。 早すぎる失敗=経営者からまだ生の言葉すら出ていない段階で、いきなり4軸で細かく詰めようとすると、答えを誘導してしまい本人の意図でない方向性が固まります。 まず「今のビジョンを1文で」出させてから掘るのが順序です。 遅すぎる失敗=③戦略方針や④アクションプランまで進んでから「そもそも何を目指していたのか」を問い直すと、決めた施策と方向性が食い違い、大きな手戻りになります。 方向性は必ず現状分析より前に固め、以降の工程はその方向性を基準に一貫させます。 また、経営者と社員でビジョンの解釈が割れているとき、新規事業や事業承継で「何屋になるのか」を定め直すときにも有効です。
