ICEスコアリング フレームワーク
施策を影響度・自信度・実現しやすさの3点で採点し、その積のスコア順に打ち手を絞り込む優先順位づけの手法。
効果の大きさ・確信度・実行のしやすさを10点満点で採点し、掛け算のスコア順に着手する。1軸が極端に低い施策は自動的に沈む。
用途
戦略方針が固まると打ち手の候補は必ず数を超え、限られた人・時間・お金でどれから着手するかを決めなければなりません。 ICEスコアリングは、各施策を「Impact(実行できたときの効果の大きさ)」「Confidence(その効果が本当に出るという確信度)」「Ease(着手・実行のしやすさ=手軽さ)」の3軸で10点満点採点し、3つを掛け合わせたスコア(最大1,000点)で順位づけします。 目的は、声の大きい人の思いつきや「なんとなく面白そう」で着手順が決まる状態をなくし、同じ物差しで全施策を並べて上から実行する仕組みをつくること。 とくにヒト・カネが限られる中小企業では、効果は大きいが確信も低く重い施策(例:大型開発)を後回しにし、効果はそこそこでも確実で軽い施策を先に回して早く成果と学びを得る判断を、感覚でなくスコアで下せるようにするのが狙いです。 アクションプラン工程で「やることリスト」を「やる順リスト」へ変換する道具です。
使い方
- 優先順位をつけたい施策候補を1行ずつ書き出す。 戦略方針・クロスSWObTなどで出た打ち手を、粒度をそろえて(1施策=主語と行動が1つ)並べる。 粒度がバラバラだと採点の物差しが狂うので、大きすぎる塊は分解する。
- 3軸の採点基準を先にチームで定義する。 Impact=KGI/KPI(売上・解約率・受注数など)へのインパクト、Confidence=根拠データや過去実績の有無、Ease=所要工数・依存関係・スキルの3つを、1〜10点で『何点は何を意味するか』を言語化してから採点する。 基準を決めずに感覚点を付けると人によって桁がズレる。
- 各施策にI・C・Eを採点し、スコア=I×C×E(掛け算)を出す。 平均(足して3で割る)ではなく積にするのが要点で、どれか1軸が極端に低い施策(例:確信度2)はスコアが大きく沈み、自動的に後回しになる。
- スコアの高い順に並べ、上位から着手する。 ただしスコアは絶対の正解ではなく議論のたたき台。 同点や僅差は、戦略との整合・依存関係(先にやらないと進まない前提施策)を加味して手で入れ替える。
- 上位施策を5W2H・WBS・ロードマップなど実行計画に落とす。 実行後は結果を振り返り(⑤)、外したConfidence評価を見直して次回のスコアリング精度を上げる。 ICEは一度きりでなく、施策が増えるたびに回す運用にする。
適用例
従業員9名・月次経常収益(MRR)480万円のB2B向けSaaS「B社」が、四半期の改善施策5本の着手順をICEで決めた例(各軸1〜10点、スコア=I×C×E、最大1,000点)。 ①初回設定ウィザードの導入(オンボーディング改善)=I8×C8×E7=448。 ②既存顧客への上位プラン案内メール=I5×C9×E9=405。 ③料金ページのA/Bテスト=I6×C7×E9=378。 ④導入事例コンテンツ3本作成=I5×C6×E8=240。 ⑤ネイティブモバイルアプリ開発=I9×C5×E2=90。 着手順はスコア順に①→②→③→④→⑤と確定。 ここでの学びは、単体の効果期待が最大だったモバイルアプリ(Impact9)が、確信の薄さ(C5)と着手の重さ(E2)でスコア90と最下位に沈んだこと。 一方①のウィザードは効果も確信も高く手も届く範囲で448点となり、まず着手。 実行後、初回離脱率が32%→21%へ改善し「オンボーディングのImpactは想定通り」と確認できたため、次回スコアリングでは類似施策のConfidenceを+1点に補正した。 感覚なら真っ先に飛びついていた大型アプリ開発を、スコアが冷静に後回しへ振り分けた点が中小企業の資源配分で効いた。
よくある誤解・つまずき
- 3軸を『足して平均』すればいいという誤解。 ICEは掛け算(積)が本質。 例えば効果9・確信5・手軽さ2の重い施策は、平均だと(9+5+2)/3=5.3で並の施策(平均6.3)と大差なく見えるが、積なら90対252と大きく開き自動で後回しになる。 掛け算にするからこそ『どれか1つが致命的に低い施策』を弾ける。 平均に変えると設計思想が壊れる。
- スコアが高い順に機械的に実行すれば正解、という誤解。 ICEは議論を速く正確にするための『たたき台』であって最終決定機ではない。 前提となる依存施策(これを先にやらないと他が進まない)や戦略との整合はスコアに乗らないため、僅差や同点は必ず人が手で入れ替える。 数字を絶対視すると、順序制約を無視した非現実的な計画になる。
- Confidence(自信度)を全施策とも高めに付けてしまう落とし穴。 根拠データが無い施策ほど本来はCを低く付けるべきなのに、提案者は自分の案に自信があるので軒並み8〜9点を付けがち。 結果、確信の低い賭けが上位に紛れ込む。 Cは『過去実績・テスト結果・データがあるか』で厳しく採点し、根拠が無ければ4以下に抑えるルールを先に決めておく。
使うタイミング
戦略方針(③)が固まり、打ち手の候補が複数出そろったアクションプラン工程(④)の入口で使うのが最適です。 早すぎる失敗=現状分析や戦略方針が定まる前にICEを回すと、そもそも何を目指すか(KGI/KPI)が曖昧なためImpactを採点する基準が無く、点数が主観の作文になります。 まず目標と方針を固め、打ち手を並べてから採点する順序が鉄則です。 遅すぎる・使いどころを誤る失敗=候補が2〜3本しかない、あるいは着手順に依存関係が強く実質1本道の場合は、スコア化の手間が成果を上回りません。 また、投資額が大きく撤退が難しい重大意思決定(大型設備投資・M&A等)を10点満点の主観採点だけで決めるのは危険で、その種はペイオフマトリクスや定量的な投資評価に委ね、ICEは日常的に数の多い改善施策・グロース施策の優先順位づけに使うのが向いています。 定期的に回して評価精度を上げる運用にすると効果が持続します。
